(ここでは木製の「桶」「樽」について述べます)「桶」と「樽」の一番の違いは、部品として使われる板の木目にあります。

「桶」に使われる板は「柾目板」というもので、吸水性に富んでいます。

「樽」に使われる板は「板目板」というもので、吸水性があまりありません。

これらの性質は、「桶」「樽」の用途にぴったり適合します。

一時的な貯水に向く「桶」

「桶」をよく見ると、組み合わさっている板の木目がすべて平行に並んでいます。

これが「柾目板」で、丸太を年輪に対し直角に切り出したものです。

水をよく吸うため長時間水に接していると水の滲み出しが生じますが、湯桶など一時的に水を汲むような用途であれば問題はなく、またすし桶のようにご飯の水分を適度に吸収させるような用途には向いています。

また柾目板はその切り出し方のために一本の丸太から限られた枚数しか採れず、高価であるとされます。

長期的な貯水に向く「樽」

「樽」に使われる板の木目は、山型などの不規則な線を描いています。

これは「板目板」と呼ばれ、丸太を年輪に沿って切り出したものです。

柾目板と比べて吸水性が乏しく、長時間水と接していても滲み出しが生じにくい板になります。

この板目板が使われていることで、「樽」は長時間にわたる内容物の貯蔵を可能にしているのです。

「桶」が強くなり「樽」が誕生した

今の形の「桶」が誕生する以前の時代にも「桶」は使われていましたが、弥生時代の遺跡から出土した「桶」はくりぬき型のもの、平安時代に誕生した「桶」は一枚板を曲げて作る「曲げ」という手法を使ったもので、いずれも長期保存や大量貯蔵を行うには強度が不十分でした。

鎌倉時代末期に、今の形の、細く切った板を組み合わせる手法(「結い」)を用いた「桶」が登場しました。

この手法は「桶」の強度を高め、大型化も可能にし、酒や醤油の大量生産が可能な「樽」が誕生したのです。

先人の知恵が詰まった容器

ただ板を組むのではなく用途に合わせて使う板を選択し、使用目的を満たすものとして完成した「桶」と「樽」。

「樽」に使う板目板には反りが生じやすいという欠点がありますが、板の「表」と「裏」を見分け、交互に並べて組むことで反りを防ぐ念の入れようです。

板の切り出し方から組み方に至るまで、「桶」や「樽」は先人の知恵が詰まった容器であると言えます。

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