「最近、物忘れがひどくなったわ。
認知症かしら」と、高齢になるち多くの人が心配します。
しかし、単なる物忘れの場合もあります。
逆に「認知症じゃなくて、これは物忘れよ」と軽く考えていたら認知症だった、といったケースもあります。
認知症と物忘れはどう違うのでしょうか。
認知症は、出来事の全てを忘れていることが多いです。
それに対して物忘れは、旅行に行ったことは覚えているけど、ホテルで食べた夕食の内容が思い出せないなど、出来事の一部分を忘れています。
認知症とはどのような状態か?
認知症の物忘れは、出来事の全てを忘れてしまいます。
夕食に何を食べたか分からないのではなく、夕食を食べたという事自体を忘れてしまうのです。
10月に旅行に行ったけど、バスで行ったのか列車で行ったのか分からないとか、お昼ごはんに何を食べたのか思い出せない、などというのではなく、「10月に旅行になんていってないわよ」などと、旅行に行ったこと自体を忘れてしまっていることが多いのです。
また、意外なことに物忘れよりも自己中心的な言動が目立つタイプの認知症もあります。
バス停に並ぶことができずに割り込み乗車をしたり、欲しいからと万引きをしたりするタイプの認知症もあるのです。
「前頭側頭型認知症」や「ピック病」と呼ばれるものです。
高齢者の犯罪や興奮しやすく衝動的な行動の陰には、この「前頭側頭型認知症」が隠れていることもあります。
全認知症の5%ほどと頻度は少ないのですが、何かと家族を困らせることが多い傾向があります。
物忘れよりも幻視が目立つタイプの認知症もあります。
「レビー小体型認知症」と言いますが、全認知症の20%くらいを占めています。
誰もいない部屋に人がいると言ったり、大声での寝言などもよく見られる症状です。
物忘れがないので、変な物でも取り付いているのかしら?と思ってしまって、お祓いなどをさせるご家族もおられるようです。
認知症の物忘れは、エピソードの全てを忘れていることが多いという事と、物忘れ=認知症ではないという事を覚えておくと良いでしょう。
「物忘れ」の意味
「物忘れ」は物事を忘れてしまうことを言います。
しかし、エピソードの全てを忘れるのではなく、一部分だけを忘れていることが多いです。
そして、誰かがヒントを与えると思い出すのも物忘れの特徴です。
50歳を過ぎると、俳優さんの顔は思い浮かんでも名前が思い出せないということばしばしばあります。
「ほら、あのがんの専門医が出てくるドラマに出ていた、綺麗な女優さん」などと、顔は浮かぶのですが、名前が出て来ません。
しかし、誰かに「まつし・・・」などとヒントを言われると、「あっ!松松松下、え~っと松下奈緒さんだ!」と思い出すことが多いです。
A子さんと10月に旅行に行ってレンガ造りの喫茶店に入ったけど、あの店で何を食べたのかしら?全然思い出せないわなどと言うのも、物忘れです。
旅行に行ったことは覚えているし、誰と行ったかも思えています。
そしてレンガ造りの喫茶店に入ったことも覚えているので、エピソードの一部分だけを忘れているという訳です。
おそらく、一緒に行ったA子さんが「ほら、あなたは抹茶のシフォンケーキを食べていたじゃないの」などと言われると、「ああ!そうだった!」などと思い出すことでしょう。
「認知症」と「物忘れ」の使われ方
病院では「認知症外来」ではなく「物忘れ外来」と表示されているケースが多いです。
おそらくこれは、「認知症外来」とすると、受診する人の抵抗感が強くなるからでしょう。
誰もが認知症にはなりたくないと思っています。
医師が認知症を疑っているなと感じた患者さんが、「私はまだまだボケてなんていません」と酷く抵抗するケースもあります。
物忘れが目立ってきて、日常生活に支障を来すようになってきたら、早めに「物忘れ外来」を受診するのが良いでしょう。
まとめ
物忘れ=認知症ではありません。
物忘れがほとんどない認知症もあるのです。
「認知症」は出来事の全てを忘れてしまいます。
それに対して「物忘れ」は出来事の一部分だけが、思い出せない状態です。
また、物忘れならヒントを出せば思い出すことが多いです。
病院では「認知症外来」ではなく「物忘れ外来」としているところが多いです。
物忘れがひどくなって生活に支障を来すようになったり、ご家族が困っている場合は、早めに物忘れ外来を受診すると良いでしょう。