「帰る」と「還る」は元の位置に戻ってくる状態を言いますが、その戻り方に違いがあります。
ただ単に、引き返してくることは「帰る」で表されます。
ぐるりと回って元の場所に還るのは「還」が一般的です。
同じ道を引き返すのであれば、「復」が使われますが、現在、「帰る」が使われる場合が多いです。
「復」の「かえる」は「往復」の「往き」「復り」のように対として使用される場合が多いです。
「帰る」の意味
「帰る」は、「かえる」「引きかえる」という意味があります。
その他に「嫁ぐ」「女性が結婚する」という意味も含みます。
「詩経・周南・桃夭」に『之子于帰、宜其室家・この子ゆきとつぐ、その室家(シッツカ)によろしからん』とあります。
「結婚する子はきっと夫の家族と調和して幸せになるだろう」という意味です。
それから派生して「身を寄せる」「味方する」という意味が生まれました。
その例は「帰属」「帰納」「帰依」などです。
「帰る」の古字の「歸」は、甲骨文字・金文に足を意味する「止」の部首を足して「歸」となりました。
この「歸」の文字には、「追う」と同じ部首があります。
この部首は神に供える肉の象形文字です。
「帚」の部分は「ほうき」の象形文字です。
これらから、「歸る」は、人が帰ってきたら、清浄に掃き清めた場所に神に供物をささげて感謝する時の情景を表していると云われます。
「還る」の意味
「還る」は、「もどる」という意味です。
この例は「生還」「帰還」があります。
また、「元に復帰する」「もとにもどす」「振り返る」という意味もあります。
「持ち主にかえす」という意味でも使われます。
その場合の例は、「償還」です。
「釈月性・将東遊題壁詩」に「男児立志出故郷関、学若無成死不還。
・男児志を立てて、郷関を出ず、学若し成る無くんば、死すとも還らず」とあります。
意味は「学問が成就しなかったら、死んでも故郷には還らない」です
この漢詩は、「再び故郷に戻ってこない」という意味で「還らず」を使用しています。
この漢字には、環の右側と同じ部首があります。
これは一巡りして元の場所にもどることを意味します。
また、「還る」には、「しん繞・しんにょう」の部首があるので道に関係する文字であることが判ります。
つまり、この文字は、「道を巡ってかえる」ことを表しています。
「帰る」と「還る」の両方が使われる「帰還」の場合
「帰る」と「還る」という言葉を意識すると、ある漢詩を思い出しました。
越中懷古・李白作
越王勾踐破呉歸越王勾踐呉を破って帰る
義士還家盡錦衣義士家に還りてことごとく錦衣す
宮女如花満春殿宮女花の如く春殿に満つ
只今惟有鷓鴣飛只今惟鷓鴣の飛ぶ有り
意訳
越王勾践が呉を破って凱旋した。
共に戦った勇士たちも家に還って錦衣をまとって祝っている。
宮殿には花のように美しい女官たちが満ちていた。
しかし、今、その宮殿は跡形もなく、
唯「鷓鴣・しゃこ・・・「やまうずら」のこと」が飛んでいるだけである。
軍隊が、戦場や基地から「かえる」ことは、「帰還」という言葉で表されます。
故に、上記の「越王勾践の凱旋」を表した李白の漢詩でも、「帰る」と「還る」両方が使用されています。
これは、「巡って帰ってくる」という行動と「直線的に引き返す」という行動の両方を、軍隊の「帰還」が持っているからなのでしょう。
「かえる」には、「帰る」や「還る」だけでなく「替える」や「代える」や「孵る」もあります
「替える」は、「入れ違いにする」ということです。
「換える」は「交換する」という意味です。
また、「代える」は「代用品で代用させること」です。
これらは、意味が似ていますが、「還る」や「帰る」とは、意味が遠く離れています。
また、「変える」は形を変えること、「孵る」は「孵化」するということです。
「孵る」は、卵からひよこに形が変わるので、態が変わるという意味の延長線上にある言葉のように思います。
いろいろな「かえる」があって、日本語は楽しく奥深いものだと思いますが、なんと日本語はややこしいのでしょうか。